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おんな小早川秀秋
第5章 石田三成という男
『如水様の仲介により、小早川家への養子入りが纏まった。とうとう私は、捨てられるのだ。あの赤子さえいなければ、などと思ってしまう自分が嫌になる』
あきが目にした赤子は、何の罪もなく汚れない瞳をした可愛らしい赤子だった。生まれたという事実だけで、人に憎まれてしまうのは不憫でもある。
しかし、今まで父だった男が突然目もくれなくなり、挙げ句よその家へ政の道具として放り出される事になれば。もし隆景にそんな捨てられ方をされたら、と想像するだけで、あきは心臓が凍りついた。
(でも……私は、絶対にいつか、お父様と親子ではなくなる)
いつか終わるは分からないが、一生小早川秀俊を演じる訳ではない。お役御免となれば、ただの村娘であるあきと、中国を我が物にした毛利一門の武士との縁は繋がるはずがないのだ。
『明日、伏見を発つ。安芸という国には、希望があるのだろうか』
秀俊の嘆きを拾っていくたび、あきは体が冷えていく。気が付けば景色が涙で滲み、あきは慌てて目を擦る。残された日記の最後の一面には、ぽつりと一滴、紙がふやけた跡が残されていた。