この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
おんな小早川秀秋
第5章 石田三成という男
するとその時、部屋の外から正成の声が響いてくる。
「秀俊様、よろしいでしょうか」
あきは慌てて日記を棚の奥にしまい込むと、入るよう返事する。現れた正成は、冷静沈着な顔をして文を差し出した。
「隆景殿の使者から、文が届きました。隆景殿が、伏見に向かわれたようです」
「お父様が? でも、文が……」
渡された文は、いつもと違い分厚くない。軽く目を通してみれば、書いたのも本人ではなく祐筆のようだった。
「病……?」
そこには、病にかかって出立が遅れてしまったが、快方に向かったので今から伏見に向かう、と書かれていた。
「お父様が来られなかったのは、お忙しいためではなかったのですか」
「おそらくは、両方といった所でしょう。秀俊様を養子とした事で、隆景殿はさらに豊臣の重臣となりました。とても見えませんが、あれであの方は年です。忙しさが病を引き起こしても、無理はありません」
もし筆を取る体力がなくて祐筆に任せたのだとしたら、それは重い病だ。無理をおして伏見へ来るのではないかと思えば、あきは手放しで再会を喜べなかった。