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おんな小早川秀秋
第5章 石田三成という男
「では、太閤様も……」
あきはつい口にしてしまいそうになるが、飛び出した言葉がどこへ向かうか分からない。慌てて口を押さえれば、正成は頷いた。
「そういえば、隆景殿がおっしゃっていましたね。京には鬼がいます、お気をつけなさい」
若さの秘訣は鬼の生き血を啜る事、などと冗談をこぼしていた日を、あきも思い出す。だが実際に相対した鬼は、生き血どころか、目の前に立つだけで寿命が縮むような気がしてならなかった。
「お気をつけなさいといえば、もう一つ」
今までの重苦しい空気とは違い、正成は軽い口調であきに声を掛ける。
「文字の勉強は結構ですが、隆景殿の手紙は頼勝殿に見せない方がいいと思います。頼勝殿も、本当に大事な分別はついていますが、あの性格です。誰かと手紙について、語り合いたくて仕方ないようで。中国が混沌としていた時代から生き抜いてきた錬磨の武士の話は、確かに何より参考になりますが……あまり人に手紙の中身を知られては、隆景殿も良く思わないでしょう」
「ははは……そうですね、気を付けます」
「悪気はないのですけれどね、あの方も」