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おんな小早川秀秋
第2章 小早川隆景という男
 
 しばらくすると、襖が開き一人の男が入ってくる。辺りが暗いせいで、顔はよく分からない。しかしそれが隆景である事は明らか。あきは拳を床につけ、深々とお辞儀した。

「楽にして構いませんよ」

 男の声は、数々の戦を潜り抜けてきた武士とは思えない柔らかなものだった。比較的落ち着いた正成ですら、どこか鼓のように張りのある声をしている。だが彼の声は、まるで琴のようだった。

 顔を上げて、あきはさらに驚く。五十は越えている、と聞いていたため、目の前に現れるのは老人だと思っていた。だが灯りに照らされたその顔は、あまり皺もなく、五十どころか四十にも見えない美丈夫だったのだ。

 どこをどう見ても、彼は隆景ではない。この期に及んで、隆景はまだ出て来ないのかと、あきは焦れったく感じる。小姓に案内され、その先ではさらにまた別の武士。いつになれば隆景に辿り着くのか分からない。そう思った、その時だった。

「お初にお目にかかります、小早川隆景と申します」

「……え?」

 どこをどう見ても隆景ではない男が、隆景と名乗り一礼する。あきはどう反応すべきか分からず、ただ固まってしまった。
 
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