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おんな小早川秀秋
第2章 小早川隆景という男
「先に話しておきますが、偽者でも影武者でもありませんよ?」
「え、でも……その、五十は過ぎてるって……どう見ても、あなたはもっとお若いのでは」
「五十? ああ、それは違いますね」
隆景は大きい目をぱちくりとさせると、愛想良く微笑む。
「私は今、六十一です」
「……はい?」
「ああいや、まだ六十だったかな……どうも最近物忘れが激しくて。まあ、五十でも六十でも対した違いはないでしょう?」
「ち、違いますよ! なんですか、偽者の対応は、偽者で充分だという事なんですか!?」
「初めて会う人には必ず疑われるのですが、そんなに私は偽者に見えますか? そのように言われても、私が隆景なのですから致し方がないのですが」
両腕を前に組み唸る男は、至って真面目である。あきを謀ろうとする腹黒さなど、爽やかな顔からは微塵も感じられなかった。
「本当に、あなたが隆景様……なのですか?」
「もちろん。仮に偽者だとして、今この時に寄越してなんの意味があるんです? どうせ明日には正式な顔合わせがあります。そこで会うのに、嘘を吐いてどうするんですか」