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おんな小早川秀秋
第2章 小早川隆景という男
言われてみれば、今日の疑いは、明日嫌でも分かる事だ。わざわざ嘘を吐く理由も、思い当たらない。
「そんな反応をされるなら、今日の内に顔を合わせて正解でしたね。明日初めて会っていたら、どこでぼろが出たか分かりませんから」
「す、すみません……とてもそんな年には見えなかったので、つい」
「いいんですよ。あなたに限らず、初めて会った方には、大体そんな反応をされますから。ところで、あなたの名は? そろそろ教えていただきたいのですが」
「は、はい。私は、羽柴秀俊と――」
安芸へ向かう道中、山口に口酸っぱく教えられた口上を言おうとしたその時、隆景は首を横に振る。
「いえ、私が聞きたいのは、あなたの真の名です。今日は羽柴秀俊ではなく、あなた自身の事を聞きたいのですよ」
「でも、私自身の事なんて聞いて、どうするんですか? 私がどんな人間かなんて、これからの暮らしには関係ないのでは」
「では、このまま名残惜しむ事もなく、あなたはあなたの名と過去を捨てますか?」
隆景の言葉に、あきは心臓が跳ねる。自分を捨て、秀俊として生きる――一時的な事とはいえ、それは大きな決断である。その重みを、思い出したのだ。