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おんな小早川秀秋
第2章 小早川隆景という男
 
「今までの自分に未練がないなら、帰っていただいて構いませんが……明日からあなたは羽柴秀俊となります。あなたの名を呼ぶ者も、あなたの人生を知る者も、何もかもなくなってしまいます。それでも、構いませんか?」

 あきのこれまで過ごしてきた人生に、特別思い残すような出来事はない。どこにでもある村に生まれ、両親を亡くす事だって、特段珍しい事ではない。叔父夫婦には疎外感を感じていたが、だからと言って捨て子になった訳ではなかった。

 日本を探せば、似たような生い立ちの人間はいくらでも見つかるだろう。そんな平凡な人生と少女の名が消えたところで、この世にはなんの影響もない。あきと一番関わりの深かった叔父夫婦とて、今頃は食い扶持が減って清々したとしか考えていないだろう。

「誰も……いません」

 あきはうつむき、震える声を上げた。

「私がいなくなって困る人は、一人もいません。だから、大丈夫です」

 特に大望もない人生なら、日本の太平のために捨てても惜しくはない。むしろ皆、捨てろと望むはずだ。あきの選択に、間違いはないはずである。
 
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