この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
おんな小早川秀秋
第2章 小早川隆景という男
だがあきの目からは、涙がこぼれていた。何が悲しいのか、自分でもよく分かっていなかった。だが、いつの間にか心は、悲鳴を上げていた。
隆景は端正な顔を曇らせ、あきの頬に手を伸ばす。そして伝う涙を指で拭うと、もう一度訊ねた。
「私は、あなたの名前を知りたいと思います。そう言わず、教えていただけませんか?」
「……あき」
「あき? ああ……それはまた、奇遇ですね。私の生まれ育った地と、同じ名前です」
中国の覇者である毛利一門である隆景がどこの生まれかなど、聞かなくても知っている。だが感慨深く囁いたその声は、あきの口元を緩ませた。
「はい、一緒です」
「その名前、忘れろと言われても一生忘れられませんね。私がこっそり、心の中に預かってもよろしいですか?」
明日からは消えてなくなると思っていた名前。運命が変わる訳ではないが、言葉一つで肩が軽くなる。あきが頷けば、隆景はあきの烏帽子を取り払った。
「本当の年齢は?」
「それは、秀俊様と同じ十三です」
「まだまだ若いのに、巻き込んでしまって申し訳ありません。しかし、太閤ももう年です、そう遠くない内に、自由になれる日も来るでしょう」