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おんな小早川秀秋
第2章 小早川隆景という男
 
 だがあきの目からは、涙がこぼれていた。何が悲しいのか、自分でもよく分かっていなかった。だが、いつの間にか心は、悲鳴を上げていた。

 隆景は端正な顔を曇らせ、あきの頬に手を伸ばす。そして伝う涙を指で拭うと、もう一度訊ねた。

「私は、あなたの名前を知りたいと思います。そう言わず、教えていただけませんか?」

「……あき」

「あき? ああ……それはまた、奇遇ですね。私の生まれ育った地と、同じ名前です」

 中国の覇者である毛利一門である隆景がどこの生まれかなど、聞かなくても知っている。だが感慨深く囁いたその声は、あきの口元を緩ませた。

「はい、一緒です」

「その名前、忘れろと言われても一生忘れられませんね。私がこっそり、心の中に預かってもよろしいですか?」

 明日からは消えてなくなると思っていた名前。運命が変わる訳ではないが、言葉一つで肩が軽くなる。あきが頷けば、隆景はあきの烏帽子を取り払った。

「本当の年齢は?」

「それは、秀俊様と同じ十三です」

「まだまだ若いのに、巻き込んでしまって申し訳ありません。しかし、太閤ももう年です、そう遠くない内に、自由になれる日も来るでしょう」
 
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