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おんな小早川秀秋
第2章 小早川隆景という男
 
「もちろん、外では秀俊として生きなければなりません。捨てなければならないものは、山ほどあるでしょう。しかしいずれ、解放される日も来ます。その日まで、あなたには父が必要です」

 隆景の手は、温かく柔らかい。だがあきに比べると大きく、父と呼ぶにふさわしい手だった。

「さあ、今日は酒でも酌み交わしながら、あなたの事を聞かせてください。明日から宴ですが、一日くらい夜を明かしても悪くはないでしょう?」

 あきは、居心地の悪さからしょっちゅう家を抜け出して、夜中に外を当てもなくうろつく癖のある娘である。秀俊暗殺に遭遇したのも、夜更かしが原因である。

 秀俊として、己の過去を捨てて生きるのは幸か不幸か。あきはここに来るまで、それを災難だとしか思っていなかった。しかしここへ来なければ、温かいぬくもりを知る事は生涯なかっただろう。

「あきさん。これから、私を父と呼んでいただけますか?」

 隆景の問いに、あきは悩む事なく頷く。隆景は慈愛に満ちた笑みを更に輝かせると、杯を手に取った。

 初めての酒の味、父のぬくもり、優しい瞳。それらはあきの不安を跡形もなく消し去り、秀俊として表に立つ次の日へ向かわせた。
 
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