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おんな小早川秀秋
第2章 小早川隆景という男
すると、不意に隆景は口元を緩め、小さな溜め息を漏らす。
「隆景様?」
「ああ、いえ、昔私の父が同じような事を言っていたなと思い出しまして。あの頃は父を食えない人だとばかり思いましたが、今はその気持ちがよく分かる」
隆景の父、それは一介の豪族から中国一の大大名までのし上がった毛利元就である。あきの住む備前でも、当然その名は広く知られている。村人達の語るおとぎ話の人間が、生きた記憶としてそこにある。あきは、それが不思議でならなかった。
「そんな事より、あきさん?」
隆景はあきの眉間をつつくと、じとりと睨む。
「私の事は父と呼べと言ったでしょう? それなのに、まだ一度も呼んでくれませんね。これはいただけません」
拗ねた表情は、とても山口より年上には見えないくらい子どもっぽい。しかし年齢だけを考慮すれば、隆景は父というより祖父なのだ。何度見ても、どれだけ眺めても違和感の拭えないその外見は、本当に鬼の生き血を啜っていてもおかしくはなさそうだった。
「父と呼ばないばかりか、いつまでも隆景様、などと他人行儀ではありませんか。他の者が漏れ聞いたら、なんと薄い親子だと思いますよ」