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おんな小早川秀秋
第2章 小早川隆景という男
「そう……ですか」
「ですから、ただ純粋に父として振る舞うのは、私も初めてです。あなたが私を父と呼べないのも、致し方ないかもしれません」
己を責める隆景に、慌ててあきは首を振る。隆景が父らしくないなどと、そんな我が儘を思った事は一度もない。本当は秀俊ですらないあきに、心から良くしてくれるのだ。あきの胸に浮かぶのは、感謝のみだった。
血相を変えて首を振るあきに、隆景は笑い声を漏らす。
「ふふ、いいんですよ。私も少し急かしすぎました。まずは、自然と父と呼べるように、互いを知っていきましょうね」
隆景はしばらく唸り、悩む。そして手を叩くと、ひらめきの輝きを見せた。
「こんな時は、文が一番です。私が文を書きますから、返事をください」
「ふ、文?」
思わぬ言葉に、あきは焦燥を覚える。だが何を書こうかと再び考え馳せる隆景は、それを見逃していた。
(どうしよう、私のために考えてくれたんだし、言い出せない)
半ば放置されて生きてきたあきは、文字の読み書きが出来ない。手紙を渡されても、当然それに反応も返事も出来ないのだ。