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おんな小早川秀秋
第2章 小早川隆景という男
だが、せっかくの提案を無駄にはしたくない。あきは、山口を始めとする三人に後で相談しようと心に誓った。
「ああ、それと、もう一つ」
今までにこやかだった隆景は、表情を引き締める。あきが釣られて背筋を伸ばせば、これまでとは違う厳かな声で問い掛けられた。
「本物の秀俊が死んだ状況を、私に聞かせていただけませんか?」
秀俊の死、その衝撃的な光景は、あきの胸を一気に凍らせる。そんな気は全くないのに、手が勝手に震え出す。蘇る記憶は、あきを硬直させた。
「思い出したくない記憶かもしれませんが、誰が手を回した事なのか……あなたの記憶に、手掛かりがあるかもしれません。犯人は太平を乱そうと企む悪漢です、世のため、必ず葬らなければなりません」
隆景の理屈はもっともで、あきもすぐ答えようとする。が、震えは止まらず、喉が萎縮して声にならない。隆景はそんなあきの手を取ると、大丈夫だと言わんばかりに温かく握った。
もう老いも進んだ老人のはずなのに、温かい手は瑞々しく皺も少ない。しかし身を委ねる器の大きさは、温もりからはっきりと伝わってきた。