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おんな小早川秀秋
第1章 乱世の匂い
「娘、ここで何が起きた。我らに説明を――」
現れた武士に、敵意や殺意はない。だが武士はあきの顔を見ると、目を見開き駆け寄ってまじまじと眺めた。
「まさか、そんな……これは、仏の導きか……」
鼻の頭がぶつかるほど近くに寄る武士は、既に白髪が混じり顔には皺が出来ている。そんな老年の武士ですら、あきには驚かざるをえなかった。
鼻を削がれ、見る影もなくなった少年。生きていた頃の彼の顔は、女のように可愛らしいと評判で、ちょうどあきと瓜二つだったのだ。
武士はあきの腕を掴むと、有無を言わさず抱きかかえる。攫われる、そう悟った時、既にあきの足は地面から離れていた。
「は、離して!」
「ならぬ。日本の安寧のため、お主には来てもらわねばならぬのだ」
武士が何を思って日本などと口にしたのか、あきには全く理解が出来ない。親もなく叔父夫婦にどことなく疎まれながらも育てられたあきにとって、生まれ育った村が日本の全てだったのだ。
だが、あきの意思に関わらず、日本は広がり始める。この日死んだ少年、羽柴秀俊は、あきの運命を大きく変えた人間だった。