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おんな小早川秀秋
第1章 乱世の匂い
あきが連れてこられた寺には、ちょうど叔父と同じくらい年だが、体格は叔父よりも各段に逞しい武士と、風格を湛え始めた男気溢れる若武者が待ち構えていた。
「秀俊様はどうなされた、山口殿」
老年の武士は、名を山口というらしい。壮年の武士に訊ねられた山口は、うなだれて小さく首を振った。
「拙者が追い付いた時には、既に……」
「なんと! これはまずい、下手をすれば、毛利と豊臣の大戦になりますぞ」
毛利と豊臣。その家の名は、村が全ての世界であったあきでも知る武家の名であった。あきが暮らすこの備前国は、かつて二つの武家が領土を争った土地である。この戦に参加した村の男は、昔話をすれば必ず戦の話を挙げていた。
そうでなくとも、豊臣は天下を統べる太閤秀吉の一族。毛利も、日本で三本の指に入ると言っても過言ではない大身の一族である。これを知らない人間など、おそらく日本には存在しないだろう。
「安心しろ、仏は我らに救いを与えた。見てみろ、この娘。女子ではあるが、秀俊様に瓜二つだ」
すると壮年の武士も若武者も、まじまじとあきを見つめる。そして納得し、膝を打った。