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おんな小早川秀秋
第3章 秀俊修行

「宴の準備が出来たそうだ。急ぎ広間へ」
本来ならこの程度の用向きなら、小姓の仕事である。それをわざわざ家老である山口が受け持つのだから、彼は徹底している。矜持と豊臣の忠義を天秤にかけた時、おそらく迷わず豊臣が重いのだろう。あきは出来るなら宴など放り出して勉強したいが、山口の苦労を無碍にも出来なかった。
「はい、分かりました」
「今日も、昨日と同じくその場に佇んでにこやかにしておれば良い。くれぐれも、真実を知られぬように」
「そんなに口酸っぱく言わなくても大丈夫だろ、昨日だって上手くいったんだ。美味い飯と酒を楽しもうじゃないか」
切り替えが早いのか、頼勝はもうよだれを垂らす勢いで宴に思いを馳せている。気楽な態度に山口は溜め息を漏らすと、あきの肩に手を置いた。
「秀俊様として振る舞う時は、間違ってもあれを参考にしてはならんぞ」
毛利一門の莫大な財力を示すように、今日も宴は始まる。部屋を一歩出れば、あきは秀俊である。緩んだ顔を引き締め、小柄な体を少しでも大きく見せるよう背筋を伸ばし、新しい道を踏み出した。

