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おんな小早川秀秋
第1章 乱世の匂い
「なるほど、これは瓜二つだ。太閤様は拾様に夢中であるし、これでもごまかせるのではないか?」
壮年の武士は、人好きのする笑みを浮かべてあきの肩に手を置く。
「俺は平岡頼勝だ。娘っこ、お前さんの名は?」
「あ、あき……」
「そうか、あきか。怖い顔の爺に連れられて、さぞ肝を冷やしただろう。だが心配するな、我々は天下を統べる豊臣の家来、お前達の味方だ」
山口が咳払いをすれば、頼勝は苦笑いして軽く頭を下げる。彼の持つ朗らかな空気は、緊張の続くあきの肩を和らげた。
「実はな、お前さんに、大事な頼みがある。無茶な話かもしれないが、聞いてくれなきゃ日本が乱世に戻るかもしれないんだ。頼むから頷いてくれ」
「わ、私に、何を……?」
頼勝は山口と若武者に目配せし、何かを確認するように頷く。そして、荒唐無稽としかいいようのない願いを口にした。
「お前さんには、先程暴漢に殺された我らの主君――羽柴秀俊様として、安芸へ向かってほしい」
そして、聞かされる羽柴秀俊という少年の過酷な人生。それは、あきが感じていた息苦しさなど軽く飛び越すものだった。