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おんな小早川秀秋
第3章 秀俊修行

暗い廊下は、僅かな足音さえ響かせる。誰がどの部屋で休んでいるかも分からない中、あきはなるべく静かに歩いていた。
袴を身に付け男の振る舞いでうろつく事に、あきはすっかり慣れていた。地味な紺色は味気なく、あきの心は躍らない。だがこんな夜の色にも馴染めば、本来場違いである城にも染まるような気がしていた。
静寂を越えれば、隆景という優しい父が待っている。音を立てないよう振る舞うが、近づくたびに心臓の音だけは抑えられずにうるさく鳴っていた。
だが、静寂を破ったのは、あきの心音ではなかった。闇を踏み荒らす足音に、背後からは秀俊を呼び止める声が迫る。聞き慣れない男の声に振り返ったその時、あきは壁際に追い詰められていた。
「きゃあっ!」
「へえ……確かによく見れば、こんな首の細っこいのが男とは思えねえなぁ」
やや小太りで、背は低く特徴のない顔とありがちな月代。こんな人間は山ほど顔を合わせたため、誰なのかあきには見当がつかない。だが、男はあきを囲い込み、首筋を撫でる。背中を走る鳥肌は、彼が味方ではないとあきに悟らせた。

