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おんな小早川秀秋
第1章 乱世の匂い
羽柴秀俊が生まれたのは、今より十三年前の事。太閤秀吉の正室である北政所の兄、木下家定の五男だった。
実子のない太閤秀吉は、優秀な子を養子として集め、後継者とすべく育てていた。何がどうしてかは分からないが、五男という身で選ばれたのは秀俊だった。
秀俊は、現在関白を継ぐ豊臣秀次に次いで後継者の候補とされていた。だが約束された未来の栄光は、突然絶たれる。秀吉と、側室の淀殿との間に子が出来たのだ。
実子がいれば、養子は疎ましくなるばかりである。そこで秀吉は、実子の椅子を奪うかもしれない立場の秀俊を追い出すと共に、自身の権力をさらに深める二重の策を施したのだ。
「毛利家に養子として秀俊様を送る、それが当初の話だったんだ。しかしこれに反発したのが、小早川隆景様だった」
毛利家には、二つ本家を支える「川」がある。一つは武勇に優れた吉川家、そしてもう一つが、隆景を当主とした小早川家である。
二つの家に支えられ、毛利家は繁栄を極めていた。だがそこに豊臣の息がかかった養子が入れば、いつか内部から毛利は豊臣に侵食されてしまう。