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おんな小早川秀秋
第4章 埋められない差

「ご、ごめんなさい……」
「いや、だから秀俊様が謝る事じゃねぇって。話に聞いたところによると、信長って男は本能寺で明智軍に囲まれた時も、敦盛を舞ったとか舞ってないとか。とんでもない男だろ?」
本能寺と言えば、あきでもその顛末は知っている。信長はそこで明智に討たれ、命を落としたのだ。
「人生、五十年……」
ふと頭に過ぎる、本物の秀俊の散り際。そして、名も知れない刺客が絶命した瞬間。目の前に炎が迫り来る中、信長は何を思ったのか。敦盛の一節は、沈んだ心に波紋を呼んだ。
「伏見についたら、舞を見物しに行くか? いや、どうせ見るなら、綺麗な踊り子の歌の方が――」
「頼勝殿、秀俊様に妙な遊びを教えないでください」
また調子に乗り始めた頼勝を、正成は冷めた目で諌める。だが、それが無駄な諌言になるのは目に見えている。正成は頼勝ではなく、あきの方へ口酸っぱく注意を始めた。
「いいですか、秀俊様。京に着いても、決してどこかの誰かのように自堕落な真似はいけません。武士とは質素に、そして力のみ求めるもの。贅沢をして、鼻の下を伸ばすなどもってのほかです」

