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おんな小早川秀秋
第4章 埋められない差

その日の手紙は、あきの落ち込む気持ちに同調するかのように、隆景自身が悲しい思いをした事を中心に書かれていた。幼い頃に兄弟と喧嘩した、などという小さな事が主だが、その中に一つ、あきの心に留まるものがあった。
『しかし私がいちばん忘れられないのは、兄、隆元です』
「隆元……?」
あきが顔を上げれば、頼勝はしばらく首を捻り考え込む。
「……ああ、思い出した! 隆元って、毛利元就の長男だな」
「お父様の兄上は、吉川元春様だけではないのですか?」
「ああ、毛利家の現当主は輝元だろ? その父親が、隆元なんだよ。早死にしちまったから、お前さんは知らないか」
死、という言葉に、あきはまた胸を騒がせる。だが頼勝はそれに気付かず、いつもの調子で話し続けた。
「隆元は病気で亡くなった、と表向きには言われているが、実のところ暗殺じゃないかって噂だったんだよ。あの頃の毛利はあちこちに敵がいたからなぁ……まあ、隆元より隆景殿の方が優秀だったから、今も毛利は安泰だがな」
隆元は暗愚だと匂わせる言い方だが、暗愚ならばなぜわざわざ名前を挙げたのか。とにかく続きを読もうと、あきは手紙に視線を戻した。

