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おんな小早川秀秋
第4章 埋められない差

家の中ではいつも父が偉大で、兄は常に父を立てていました。今まで父に従い向かった戦でも、その姿勢はさして変わりませんでした。築かれた上下の関係は、変わるものではないと思っていましたが、お家の危機を前に、私はその逆転を見たのです。
その頃の私は二十代も半ばで、小僧であった頃よりは広く物事を見られるようになっていましたから、兄へ素直に敬愛の念を抱きました。そもそも人とは誰であれ表と裏、二つの顔を持つものです。家庭での兄を全てだと思っていた私が、若く浅はかだったのです。
その日から、私は兄を心から兄と呼べるようになりました。よくよく見てみれば、兄は戦の際常に自ら動き、表へ立ち、一家の長として背筋を伸ばしていたのです。戦に関しては、父や元春兄上があまりに優れていたため気付きにくかったのですが、兄とて一度も敵へ怖じ気づく事はありませんでした。
兄は本家を、元春兄上は吉川家を、そして私は小早川家を。兄の足りぬところは、元春兄上と私が補い、三人揃って戦えば、この世に怖いものなどないと思いました。
しかし、これだけ兄に対する評価が好転しても、私はまだ愚かでした。この時はまだ、兄がどこか足りぬ存在だなどと軽んじていたのですから。

