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おんな小早川秀秋
第5章 石田三成という男
 
 城へ早足で向かう道中、人気がないのを確認して、あきは男に訊ねた。

「あの、あなたのお名前をお伺いしてもよろしいですか? 太閤様の前で知らないとは言えませんので」

 男は歩く速度を緩めるでもなく、立ち止まる事もなく、流すように答える。

「石田三成だ。影武者ならば、金吾に関わる者の顔ぐらい覚えておけ」

 会った事のない人間を、どう覚えればいいのか。あきはますますげんなりして、太閤秀吉との謁見など早く終わらせたいと心底思っていた。

 部屋に通されてしばらくした後、奥から足音が聞こえてくる。平伏して待てば、老いた男の声が響いた。

「面を上げい」

 あきに走るのは、緊張である。石田三成という男が見抜いたように、もし秀吉にも影武者と知られてしまえば。おそらく、あきの首はその場で胴体から切り離されてしまう。

 だが、顔を上げたその時、秀吉は秀俊を見てはいなかった。

「拾や、拾。おーい」

 織田信長ですら手の届かなかった天下を手に入れた男、豊臣秀吉。南蛮物だろうか、見た事のない生地と柄の派手な着物に身を包んだ小男の目には、お揃いの柄の着物を着せられた赤子しか映っていなかった。
 
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