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おんな小早川秀秋
第5章 石田三成という男
 
 人には様々な顔がある。子どもでも知っているはずなのに、それを忘れずに生きている人間は少ない。あきとて、刀を握った隆景を前にしたその時、それも隆景なのだと思えなかったのだから。

 豊臣秀吉が天下を統一し、戦乱の世は終わった。乱世の気風は、否が応でも消えていく。幼いあきは、農民が刀を持っていた時代を知らない。隆景の隠した顔など、初めから理解しようがないのかもしれない。

 しかしあきは、隆景を知りたかった。隆元と同じように、誰にも苦しみを悟らせず消えていくような運命を辿っては欲しくなかった。もっとも、あきに打ち明けられるくらいなのだから、親しい者には弱音を漏らす日もあるのかもしれないが。

(私……もっと、勉強しなきゃ)

 手紙を書き終えると、あきは秀俊の日記を引っ張り出す。まずは完璧な影武者になる事。隆景の役に立てなければ、あきには側に寄り添う価値もないのだ。

 秀俊が誰と親しく、どんな行動を取り、何を思い生きてきたのか。夜遅くまで、小さな灯りを頼りに、あきは机にかじりついて日記を読み解いていった。
 
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