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ブルジョアの愛人
第11章 木曜の雨に酔えば
「どうして」
浩晃はカップルの目を気にせず、公園の柵に腰掛けた。
「こんな関係を続けてバレたら…」
「それは前にも聞いたよ」
莉菜の言葉をピシャリと遮る。彼女は黙り込んでしまった。
「まさか、別れる理由がそんなんじゃないよね」
浩晃は少し苛立ったように言った。片方を吊り上げたままの唇で、小学生の愛人を嘲笑うように。
「莉菜にとって俺は所詮そんな理由で別れられるぐらいの男でしかなかったんだ?」
莉菜が何か言う前に浩晃は言った。じゃああなたは家庭を捨てる気があるの、とは莉菜が絶対に言わないことを分かっていて、だ。
きっと電話の向こうでは、莉菜が唇を噛み締めていることだろう。その光景を思い浮かべると、浩晃は少し胸が痛んだ。
「もう一回冷静に考えてごらん。自分の気持ちに素直に向き合って、結論が出たらまた電話して」
それだけ言うと、逃げるように電話を切った。
くそう、と大声で泣くように叫ぶと、カップルは浩晃に奇妙な目を向けて去って行った。浩晃は構わず立ち上がり、座っていた柵を蹴ろうとして柵に足を引っ掛けた。
砂利に、ひとしずく、またひとしずくと雨が落ちていた。