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ブルジョアの愛人
第18章 紫陽花を添えて
しかし残念なことに、樹里は登校してきた。憔悴しきった表情で。
「大丈夫かな…」
中休み、優々は黒板を拭く手を止めてぽつりと呟いた。浩晃逮捕の話を聞いて嬉しそうな顔をしなかったのは、このクラスでは優々だけだ。真緒ですら、莉菜のことを忘れて一瞬ほくそ笑んでしまった。
やっぱり莉菜と似ている。他人の不幸を自分の生き甲斐にできず、一緒に苦しんでしまうところが特に。だから真緒はそんな彼女達が大好きだ。
だが、同情の相手が樹里となると真緒も穏やかではない。莉菜も優々も、樹里に傷つけられた「被害者」なのだ。それなのになぜあんな子の気持ちに本気で寄り添えるのか。
「自業自得でしょ」
真緒は冷たく吐き捨てる。以前、莉菜にも同じようなことを言った。それは嫉妬から来る怒りだということに真緒はまだ気づいていない。
「何で? 確かに莉菜ちゃんにひどいことしたのはアレだけど、お父さんのことは全く別じゃん」
優々も少しムキになった。彼女には珍しく、論理の破綻していない正論だ。
「青木さんが意地悪な人だから皆ざまあみろって思うかもしれないけど、青木さんが普通の人だったら皆そんなこと思わないはずだよ」
それがね優々ちゃん、思うんだよ――非日常的でスリリングな他人の不幸は大衆の娯楽といっても過言ではないだろう。
そんな優々が悲しむような現実を、今は教える気になれなかった。