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ブルジョアの愛人
第18章 紫陽花を添えて
公園の前まで来ると、真緒が沈黙を破った。
「ちょっといい? 話したいことがあるんだけど」
二人はランドセルを下ろし、ベンチに腰掛けた。優々は何を言われるのかと少し構えているようだった。
「あのね、ほんとはまだ友達には言うなって親に言われてんだけどさ」
一分近く黙り込んでから、引っ越すかもしれない、と真緒は言った。思いがけない言葉に、優々は思わず声を漏らした。
「引っ越すとしても卒業してからだから、小学校はずっとこっちなんだよねー。でもお父さんの転勤も確定じゃないから無闇に話すなって釘刺されたんだ」
わざと明るく振る舞っているように見えた。優々は俯き、そうなんだ、としか言えなかった。急に不安や寂しさのようなものが胸に押し寄せてくる。
そういえば、真緒の父が出張から帰ってくるのが月曜日と言っていたから、昨日会社へ行って言い渡されたばかりなのだろう、と思った。