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ブルジョアの愛人
第18章 紫陽花を添えて
「私はさ、お父さんが一人で行けばいいじゃんって言ったんだけど、お母さんが全力でキョヒるんだよね、すごい必死に。ああそっか、浮気心配してるのか、って気づいたからそれ以上何も言わなかったけど」
真緒は喋り続ける。沈黙を恐れるように。
「でも翔太だって今の学校で仲いいコいっぱいいるのにさ、どうにかできることを大人の都合でどうにかできないってすっごい理不尽だと思わない?」
「真緒ちゃん」
優々は震える手を握った。真緒が何をそんなに怖がっているのかよく分からないが、とにかく彼女に落ち着いて欲しかった。真緒の揺れる瞳がやっと優々を捉える。
「私、お母さんにケータイ買ってもらえないか頼んでみる。そしたらもし真緒ちゃんが引っ越しても連絡できるし。あと、逢いに行くよ」
優々の声も心なしか震えていた。それもそうだ。大好きな彼女が、遠くへ行ってしまうかもしれないのだ。冷静でいられるはずがない。
すると、真緒がやっと笑った。苦しそうな笑顔だった。
「気、早くない?」
目は赤く、うっすらと涙が浮かんでいた。嬉しかったのだ。先のこととはいえ、真緒も優々と離れるのが怖かった。
だが、優々は強がっているのをちゃんと分かってくれた。初めて同じクラスになって、まだ二ヶ月。しかしその二ヶ月は、二人にとってとても大きなものだったようだ。
手を握り合う二人の後ろを、パトカーが走り抜けて行った。