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ブルジョアの愛人
第19章 絆創膏をくれた人
そうして涙は真っ赤な頬を絶え間なく流れ続ける。胸におもりを乗せられたような苦しさも消えない。
いや、消してはいけないのだ。
死んでいい人間などいないというのは綺麗事かもしれない。だが飯尾は、本当に「死んでいい人間」だっただろうか。幼い手にかけなくても、解決方法はあったのに――激しくなる樹里の嗚咽を、刑事は黙って聞いていた。
「刑事責任は問われない。だがね、人を殺してしまった罪は、その十字架は子どもだろうが大人だろうが一生背負っていかなきゃいけない。いいかい、少年法に甘えるな。自分を大切にしなさい」
樹里は何度も頷いた。何度も何度も。まだ大丈夫じゃん――そんなことを思ってしまった自分が悔しかった。
ふと、莉菜や優々にしてきたことを思い出す。樹里は彼女たちを殺してきたも同然だった。やはり甘えてきた。「たかが小学生の村八分」という考えに。
愛海や玲愛たちは、このことに気づけるだろうか。自分が被害者側になっても気づけないだろう。
樹里にとってそんなことは今は関係ないはずなのに、なぜか無性に悲しくなった。
「少しは落ち着いたかい」
また涙を流し始めた樹里に刑事は優しく声をかけ、立ち上がる。親ですら教えてくれなかったことを、この中年の刑事は教えてくれた。叱ってくれた。
自分の人生で、この人に出逢えたことが、嬉しかった。樹里も立ち上がる。しっかりと彼の目を見て、はい、と言った。