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ブルジョアの愛人
第22章 おとなツインテール
九年前通っていた市立大竹小学校は、樹里の網膜に残っている姿そのままだった。
先月二十歳になったから、昔よくやっていた二つ結びは大人っぽく低めにしてみた。髪は大分短くなったが、水色のシュシュは当時使っていたのとよく似たものを探した。
背もあれから伸びたはずだが、決して長身とはいえない。それも好都合だ。
わざわざこんな寒い時期にここを訪れたのは、もちろん大塚に逢うためだ。しかしあれから九年経っているから、きっと大塚はもういないだろう。だが勤務先ぐらいは教えてもらえるはずだ。
安物の腕時計はちょうど十六時を指した。校門に一歩踏み出す。卒業生が来ていいのは十六時からなのだ。
午前中には合格発表と手続きがあり、一度帰るのも億劫だったからそこら辺を歩いて時間を潰した。
校舎から中年の女性が出てくるのが見えた。保護者には見えない。事務の仕事をしている人だろうと思い、声を掛けてみた。
「私、ここの卒業生なのですが、大塚駿太先生はいらっしゃいますか?」
スーパーのレジ打ちをしていそうなその女性は眼鏡の奥の細い目を数回まばたきさせてから、校舎を指さした。
「大塚先生なら今クラブの方についていると思いますけど」
「あっ、まだこちらにいらっしゃるんですね?」
「はい。この学校では一番長い先生ですので。教頭に言えば逢えると思いますよ」
愛想のなさそうな風貌だったが、意外と親切に教えてくれた。樹里も丁寧にお礼を言い、頭を下げた。