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ブルジョアの愛人
第22章 おとなツインテール

校舎の周りに吹く風には、若草の匂いとブラスバンドクラブの合奏が乗っていた。思い切り吸い込むと、切ない気持ちになる。

今でも、血まみれの飯尾の後ろ姿は夢に出てくる。忘れてはいない。それでも時々、忘れようとする自分がいる。そんなときはあの刑事の言葉を思い出していた。

樹里はあの後家庭裁判所の判決により、埼玉県の更正施設へ送られることとなった。

更正施設というぐらいだからとんでもない問題児ばかりかと思ったら、そうではなかった。

その施設では基本的に年上の先輩が年下の子の面倒を見るシステムになっていた。男子の先輩は正直怖い人もいたが、樹里の世話をしてくれた女子の先輩は多少気性が荒かったが天真爛漫で、何かと相談に乗ってくれた。

彼女は父親の再婚がきっかけで家族とあまりうまくいかなくなったらしく、具体的にどんなことかは訊かなかったが「少々悪いこと」をして「クソアマに無理やりブチこまれた」らしい。

だが、家に比べたらここは天国のようだ、と彼女は言った。毎晩お盛んな親の行為に耳を塞ぐこともなければ、居場所を探すこともない。おまけに後輩が可愛い。

「あたし保育士目指してるんだけどさ、夢を見つけられたのもここにブチこまれたお陰?ってか」

口調こそコギャル喋りが抜けないものの、後輩の世話をするときの彼女は母親のように穏やかな顔をしていた。

そして彼女は、樹里より三年早く施設を出て行った。樹里にとって、彼女もあの刑事と同じような存在だ。
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