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ブルジョアの愛人
第23章 幸せは彼へのお礼
それからはわりとあっという間だった。臨月を迎えると大橋がやたらそわそわし始め、莉菜が自宅で破水したときのことはシミュレーションしていたはずなのに、いざ破水したときは苦しげに呻く莉菜に命令されて動き、待合室で立ったり座ったりを繰り返していた、らしい。
「あんなに慌ててるところ見たの、小学生のとき以来かも」
昼間、子どもの面倒を見てくれる義母は、夕食をともにする度に大橋の慌てぶりを笑いながら話す。莉菜も一緒になって笑うから大橋は拗ねて黙り込む。それから大橋の子ども時代の話をされ、彼はさらに不機嫌になるのだ。
義母は、大橋が小さいうちに離婚し、女手ひとつで大橋を育て上げた。天衣無縫な性格の彼女は莉菜を実の子どものように可愛がってくれるし、莉菜も義母についつい甘えてしまう。
「春音(はるね)ちゃんはパパみたいに不良にならないもんねー」
「不良じゃねえし」
義母の手土産のビールを飲みながら、そんな親子の会話を聞くのも楽しい。
社長の愛人から成り上がったのか成り下がったのかよく分からないが、きっと成り上がったのだろう。
不倫であれば、こんなふうに可愛い子どもを産ませてもらうことも、義理の母親を交えて仲良く食卓を囲むこともできないはずだ。