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ブルジョアの愛人
第3章 二人の少女
「大塚センセ、ちょっといいですか?」
楽しそうな子どものざわめきが溢れる昼休みの教室。体育館や外へ行く子もいれば、教室でおしゃべりを楽しむ子もいる。
そんな中で、大塚の机の傍でふんぞり返っているのは、珍しく一人の樹里だった。大塚は、いつも以上に自信に満ちた樹里の声にハッと顔を上げた。
大塚の手元には、採点途中の漢字テスト。ごつごつとした大きな手に赤ペンはあまり似合っておらず、どこか異様な光景だ。
「…何かな?」
上目遣いに樹里を見る大塚の表情は、狼に命乞いをする子羊そのもの。情けない話だが、小学五年生とは思えない程に頭が良く、性格も陰湿な樹里が怖いのだ。
「お話…っていうか、相談したいことがあるんですけど…」
そう言って樹里はちらりと横に目をやる。ここじゃちょっと、ということを示す仕草だ。仕方がない。大塚は重い腰を上げた。
「音楽室に行こうか」
声が震えるのを隠すように早口に言うと、樹里は満足そうに微笑み、大きく頷いた。