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ブルジョアの愛人
第6章 冷めたスープ
浩晃が帰宅すると、珍しく妻の声に出迎えられた。といっても、浩晃に向けられたものではなく、長い爪で握る電話に向けられたものだったが。
「――はい。はい、すみません。私からも、話を聞いておきますので…はい。失礼します」
溜め息をつくと同時に通話を終えると、高い声とは裏腹の、醜い表情が浩晃に向けられる。
「早かったのね」
もう夜八時だというのに、麻里子はおかえりと言う代わりにそんな言葉を浩晃に浴びせた。
いつものことだから浩晃もいちいち相手にしないが、やはり気分の良いものではない。莉菜が妻だったら、と想像しかけて、自分が惨めになるのがオチだ。
「樹里がどうかしたのか」
担任から電話が掛かってくるのは日常茶飯事である。大塚になってからは滅多になくなったが、樹里が二年生の時に担任だった気の強い女性教師は、毎晩のように電話を寄越した。麻里子のヒステリックな声を聞くことがなくなっただけ平和である。
「別に」
娘の問題を二人で解決する気がない麻里子にうんざりするのも『いつものこと』だ。