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ブルジョアの愛人
第6章 冷めたスープ
樹里と顔を合わせない日が、最近は結構ある。浩晃の仕事が忙しいというのもあるが、結局はそれも言い訳だ。娘の同級生と不倫をしている後ろめたさから、浩晃が自ら仕事を増やしているのだ。
だが今日は違った。麻里子が寝室へ入ってから間もなく、浩晃が風呂から上がるとリビングに樹里がいた。
「おかえり」
樹里は、ちゃんとこう言葉をかけてくれる。金の無心だと分かっていても、娘からの労いの言葉は嬉しいものだ。
「ただいま。寝れないのか」
樹里はテレビをつけたままミネラルウォーターを二リットルのペットボトルから直接飲んでいた。ジュースは太るから、と樹里は言うが、浩晃には無駄な肉などあるように見えない。
「莉菜のこと、パパに聞かせたことなかったよね」
莉菜という名前に、浩晃は心臓が止まるかと思った。娘の口からその名前を聞くだけでこんなに驚くとは無様だと、思わず自嘲する。
「あのね、莉菜はハブられてたんだ。最近やっとクラスに溶け込んでたんだけどさ、そしたら今日、由加里と玲愛と沙良と愛海が…」
前を向いたまま語り始める樹里を、浩晃は不思議なものでも見るように眺めていた。汚物扱いされたかと思えば、こうして開けっぴろげに話し出す。年頃の娘とはよく分からないものだ。
しかし、浩晃の頭にはある仮説がぼんやりと形をなして浮かんでいた。しかし理由をつけてその仮説を否定する。
そんなことはあり得ないのだ。そんなことはあってはならない。そんなことは――…