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ブルジョアの愛人
第6章 冷めたスープ

大人として何か言わなければと言葉をひねり出す度に自分が嫌になる。所詮、俺もつまらない大人なのだと。浩晃はフィルターぎりぎりまで吸ってから、また新しい煙草に火を点けた。

「浩晃さん」

莉菜は掠れた声で言った。

「わがまま言ってもいい?」

まだ声は濡れている。滅多に聞けない莉菜のわがままが聞けるのが嬉しくて、いいよと答える声が心なしか弾んでしまった。

「今から逢いたい」

だが、今度は返答に詰まってしまった。明日――厳密にはもう今日だが――は木曜日である。こんな時間から莉菜を連れ出して良いものなのか。それに、明日は浩晃も仕事である。

「明日はお休みするから」

莉菜は涙声で畳み掛ける。浩晃は明かりをつけっぱなしのリビングをちらりと見た。

「じゃあ今から迎えに行くよ」

考えるより先に口が動いていた。彼女の傷を癒せるのは恋人である自分しかいないのだ。ここで渋るわけにはいかない。

「本当にいいの?」

「もちろんだよ。着替えて待ってて」

浩晃は電話を切り、まだ長い煙草を揉み消した。
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