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ブルジョアの愛人
第6章 冷めたスープ
莉菜から電話がかかってきたのは午前零時を少し過ぎた頃だった。樹里から事の顛末を一通り聞いた浩晃は、樹里が直接関わっているわけではないにしろ、電話を取るのを躊躇ってしまった。
しかし結局電話をかけ直したのは、"樹里の父親"ではなく"大人の恋人"として話を聞こうと自らに言い訳をしたからだ。
「もしもし…」
電話越しに聞く莉菜の声は、いつもより大人びて聞こえる。それでもやはり幼さは否めないが。
「辛かったね」
浩晃はバルコニーに出て煙草に火をつけた。電話をかける前から用意していた言葉を呟くと、途端に莉菜は泣き出してしまった。
胸がすぼまるような嗚咽は暫く続いた。五分ぐらいだろうか。ひとしきり泣いた後で、莉菜はしゃくり上げながらぽつりぽつりと浩晃に話し始めた。
友達がくれたピンで髪を切られた部分を留めて帰ったが、祖母に気づかれてしまったこと。祖母に「そもそもあんたが暗いから」と嫌味を言われたこと。それを聞いた祖父が激怒し、祖父と祖母が喧嘩してしまったこと。家族のことをあまり話さない莉菜の口から聞く話は、あまりにも辛いことばかりだった。