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ブルジョアの愛人
第7章 花はここに
莉菜は俯いたまま肩を震わせている。クラスメイトに切られたという左側の髪は耳に掛け、掛からないところは小さな翡翠のような飾りがついたピンで留められていた。だがよく見ると不自然に短いのが分かる。それを見るだけでも辛かった。
いつも着飾った姿しか見ていないせいか、莉菜にとっては普段着の水色のパーカーとジーンズという服装が浩晃には新鮮だ。だが今はそんなことを考える余裕もなく、莉菜の啜り泣く声をカーラジオ代わりにハンドルを握ることしかできない。
「ごめんなさい、本当に…」
莉菜はさっきからずっとそればかりだ。夜中に呼び出したことを相当気に病んでいるのだろう。浩晃はその遠慮さえも苦しく感じた。
「いいってば」
「浩晃さん、明日お仕事なのに」
隣でやっと顔を上げた。ビジネス街の微かな明かりが涙の跡をくっきりと照らし出す。
「俺も逢いたかったから」
彼女はその言葉で黙る。信じてくれたのかは分からないが。
いつもなら、マンションの部屋で待っているのは情事だ。しかし浩晃はまだ迷っていた。
莉菜がしたいと言うなら抱くつもりだったが、こんな複雑な気持ちのまま抱けるのだろうかと。莉菜を傷つけてしまうだけなのではないか――そんな思いさえあった。