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ブルジョアの愛人
第11章 木曜の雨に酔えば

莉菜と最後に逢ってから一週間が経とうとしていた。

金曜日は逢わなかった。夕方、莉菜の方から「体調が悪い」とメールが送られてきたのだ。

やはりまだ心の傷が癒えていないのだろう。長く書こうとするとまた余計なことをしてしまいそうなので、内容は体調を気遣う文のみとした。

莉菜はまだ学校に来ていないと樹里から聞いた。しかしここ一週間は樹里も様子が変である。

きっと友達が来ていなくて寂しいのだろうと浩晃は解釈した。樹里の秘密など何も知らずに。

その日は六時頃に仕事が終わり、そのまま家に帰るのも憂鬱なので数少ない友人を呑みに誘った。

行き先はフレンチなどではなく、ビジネス街のはずれにあるバーだ。

商店街で洋品店を営む彼とは大学で知り合った。結婚後も半年に一度はどちらからともなく誘い、こうして酒の席をともにする。

職種は違えども経営者同士、近頃の不況について嘆き、年頃の娘の冷たさにも嘆く。

薄暗い照明に頭部の地肌が透ける友人には、中学生の娘が二人いる。ここ最近は中高一貫の私立学校の学費の高さについてもよくこぼしていた。

誘うのは思いついたときにといった体だが、似た者同士苦悩を共感してもらえると嬉しいのだ。

義理の付き合いではないから苦ではない。寧ろささやかな息抜きである。
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