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裸足のprincess
第1章 雪のせい

 指を鳴らしたマスター。

 そして、いつものウェイター。

 違うのは、店の姿。

 壁中に装飾が施され、カウンターには花が並んでいる。

 「な……に、こ……れ」

 「花を辿って行ってみて」

 裕也が私を優しく降ろす。

 今気づいたら、店全体に絨毯が引いてある。

 どこのだろう。

 柔らかい。

 私は夢心地で花の元まで歩く。

 なるほど。

 遠目にはただ並んでいたように見えたが、矢印のように次の花へと示している。

 それに従って、絨毯の上を進む。

 マスターはグラスを取り出し、カウンターの奥に消えた。

 ウェイターの男性は微笑んで、壁際に控えた。

 なに。

 なんなの。

 不思議に思いながらも、花を辿る。

 カウンターから、椅子。

 さらにテーブル席。

 一番奥の丸テーブルに来て、白色の紙を見つけた。

 薔薇に囲まれている。

 まるで、雌蘂のように。

 私は直感に任せ、それを裏返した。

 「襟菜。一周年おめでとう」

 書いてあった文字。

 それを裕也が後ろで囁いた。

 驚いて振り返ると、マスクに手をかけられる。

 そのまま外され、唇を重ねた。

 リップもグロスも塗っていない。

 久しぶりのキスだった。

 初めはお互いの形を確かめるようになぞりあう。

 舌がぶつかると同時に吸い寄せられてしまう。

 もう私に余裕はない。

 甘咬みされるたびに背中がビクンとしてしまう。

 裕也の手が髪を絡める。

 「……んッッ、む……」

 突然ここがどこだか思い出し、離れようとしたが、キッチリ押さえられている。

 角度を変えて、激しく。

 「…は…んん……ッッふ」

 水音がマスター達に聞こえてるんじゃないかというほど、脳に響く。

 それが脳を揺らし、益々ぼーっとしてくる。

 唇が離れた時、脚に力が入らなかった。

 腰を支えられ、裕也にすがりつく。

 「……長いよ。しんじゃう」

 息も絶え絶えに呟くと、ギューッと抱き締められた。

 「襟菜、可愛い」

 心臓が叫び狂う。

 裕也を見上げると、ベッドで見るような鋭い濡れた目をしていた。

 「ゆゆゆゆ、裕也。あの、ここ、あれ。家じゃないからね」

 「……わかってるよ」

 マスターが現れる。

 それを合図のように、裕也がウェイターの所に向かった。
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