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愛する、三人のケダモノ達。
第3章 嫉妬する、ケダモノたち。
 身体に軽い疲労感を感じながら、夜遅くに帰宅する。

 マンションのリビングでは朝陽兄さんと一人の男性が談笑していた。

「朝陽先生にとって、セックスはどんな意味があるんですか?」

 その男性はケラケラ笑いながらメモをとっている。

「男からしたら、子孫繁栄。私自身の話なら、そうだな…マーキング?」

「マーキング、ですか。はぁ。」

 朝陽兄さんは片手にウィスキーのグラスを揺らしている。氷が溶けるのをじっ、と見ている。

「ただいま。あ、橘さん。こんばんは。」

 春海は車の鍵を朝陽兄さんに渡しながら、メモをとっている男性に声をかける。

「こんばんは。久し振りですね、春海君。」

 私とも目が合い、軽く会釈をする。

「伽揶ちゃん。彼は、善川出版の私の担当者。橘湊(たちばなみなと)君。こちらの女性が私の従妹。この部屋の主だよ。」

 朝陽兄さんに紹介され、橘さんはスッと手を出し握手する。

「はじめまして。朝陽先生にはいつもお世話になっています。貴女のお話は朝陽先生からいつも伺っていますよ。」

「あ、そうでしたか…。どうぞ、よろしくお願いします。」

 橘さん…か。前にどこかで名前を聞いたような…。

 考え事をしながら、バックや上着を持って自分の部屋に入る。

 昼間の疲れが出たのか、ベッドに腰かけたとたんに睡魔に襲われる。

 あ、シャワー浴びたかったのに…無理…。

 目を閉じ、温かい布団に身体を沈める。夢を見るのに、何秒もかからなかった。




 遠い山々に朝霧がかかり、薄紫や青の層が空に映える。朝日はまだ差していない中、月明かりが森に差し込む。

『もう、会うこともなかろう。身体を大事に。』

 霧がスッと引き、木々の間から声がする。

『これで、お別れですか?』

『…いつか、また。』

『嫌です。お別れしたくはありません。』

 二人の姿は見えない。

 声だけが、揺れる木々のざわめきの間に聞こえる。

『また。また、いつの日か交わる日が来るやもしれぬ。それまでの、辛抱じゃ。』

 一人は大人。もう一人は子供のようだ。

 昔から知っている、山と森の景色。

 二人の別れのせつない会話。前にも見た、感じたこの夢は何度も何度も繰り返す。

『…はい、お母様。』




 熱い涙が頬を伝う。




「…伽揶ちゃん…?」
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