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ただ、あなただけに愛を
第1章 ライン
後ろから歩いてきた通行人が、立ち止まる二人を追い越し通り過ぎる。背が高く頭一つ抜いたその男の髪は、思わず目を奪われるくらい鮮やかな赤だった。
赤髪の男は横切るその時、二人を邪魔そうに睨み付ける。その横顔に、峰子は息を忘れるくらいの衝撃を覚えた。
顔も合わせず、声すら聞かせず、峰子を払いのけた彼。その顔は峰子を、彼に出会った十二年前に戻した。
少し細い眉毛、茶色がかった切れ長の瞳、通る鼻筋。そして右の口端にある、小さなほくろ。
(――蒼ちゃん)
その男は、峰子が十二年の時を捧げてきた男、蒼一朗に瓜二つだった。否、出会った頃の蒼一朗よりも、若かった。峰子が知りようもない過去の蒼一朗に、思わずすれ違ったようだった。
男は峰子を追い越した後も、変わらず真っ直ぐ道を歩いていく。その背中もまた、蒼一朗にそっくりだった。
「……峰子さん?」
「――ごめん、ユキ。あたし、用事出来た。これ、今日のお礼。また、店に行くから」
「えっ……み、峰子さん!?」
峰子は財布の中の札を全て抜いてユキに渡すと、考えるより早く、赤髪の男に向かい駆け出していた。