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ただ、あなただけに愛を
第1章 ライン
 
「ねぇ、キミ!」

 後ろから声を掛ければ、赤髪の男は足を止める。振り向いたその顔は、やはり蒼一朗にそっくりだった。

 だが、蒼一朗と違うのは表情である。蒼一朗は普段物腰柔らかい顔をしているが、目の前の男は眉間に皺を寄せ、目をつり上げている。心に壁を作り、寄せ付けないような瞳。峰子はまじまじと、彼を見つめた。

「……何の用だ」

 溜め息混じりに訊ねる低い声も、蒼一朗に似ている。峰子はそこで我に返ると、男の腕を取った。

「キミ、今日は何か用事で来てるの? 友達と待ち合わせとか?」

 女から誘われているのは慣れているのだろうか、男は眉一つ動かさない。読めない表情に、峰子は焦りを覚えた。

「暇なら、お姉さんに付き合ってくれない? お茶くらいなら奢ってあげるから」

「……それは、俺を誘ってるって事か?」

「そういう事。キミの顔、すごく好き」

 慣れた男に回りくどく話しても時間の無駄だろうと、峰子は直球で誘う。男はしばらく峰子を睨み検分していたが、峰子から視線を外すとスマホを取り出し、どこかへ電話を掛け始めた。
 
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