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ただ、あなただけに愛を
第1章 ライン
 
(そりゃ、若く見えるはずだわ……)

 少し発育のいい男なら、十六にもなれば大人とさして体格も変わらない。ましてや私服ならば、成人に見えても仕方なかった。

「ヤる気がないなら、それでいい。じゃあな」

 峰子の硬直を拒否と受け取った十六歳の少年は、きびすを返し立ち去ろうとする。

「ま、待って!」

 だが峰子は腕に抱きついてそれを止めると、もう一つ訊ねた。

「キミ……名前は?」

「――紅男。鬼面(おもの)紅男だ」

 赤い髪をして、名前が紅男。それはとても本名とは思えない。しかし、名前が本物か偽物かなど、峰子にとって問題ではない。ようするに、ベッドの中で呼べる名前があればそれでいいのだ。

「あたしは鳥海峰子。年齢は……聞かなくてもいいわよね?」

「興味ない。で、どうするんだ?」

 紅男に訊ねられて、峰子は財布の中身を思い出す。ホストクラブの代金に、ユキのアフター代。札を全て渡してしまったため、残るのは小銭とカードだけである。

(でも、宿が欲しいなら、ホテルじゃなくてウチでもいっか)

 少年と知って、峰子の中に少し隙が生まれる。一晩くらいなら家に上げても平気だろうと、さして悩まずに結論付けた。
 
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