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ただ、あなただけに愛を
第1章 ライン
ハッピーバースデーの歌を耳にしなくなったのは、峰子の両親が離婚した十四歳の春からだった。しかし、ケーキとプレゼントがないのは味気ない。子どもの頃は寂しさを募らせるだけだったが、大人になった今は金の力で紛らわせる。片付けを諦めた峰子が向かったのは、ホストクラブだった。
「峰子さん、今日が誕生日だって教えてくれたら、プレゼント用意したのに。今度来てくれた時に渡しますから、今日はケーキとシャンパンの奢りでいいですか?」
峰子がいつも指名するのは、まだ新人のホスト、ユキである。ホストのわりにおっとりとした喋り方と顔つきで、癒し系のオーラがお気に入りだった。誕生日だと明かせば、すぐにケーキを手配しシャンパンも用意する。
決して売れ筋ではないユキだ、奢りというのはかなりの負担である。それを苦とも感じさせない姿は、峰子の心に刺さった。
「ありがと、ユキ。今日は、アフター付き合ってくれる? 人肌恋しいの」
「僕でいいんですか? 誕生日に峰子さんを独り占め出来るなんて、嬉しいです」
背伸びして頑張るユキのためにと、峰子は奢られた以上のボトルを開ける。金を使う事が愛情。簡潔な世界は、峰子を簡単に姫君に変えた。