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淫風の戦記
第2章 幻覚薬
羽織っていた浴衣を床に脱ぎ捨てる。

枇杷の肌は白い。強靱で細い体。形の良い椀に乗った上向きの乳首は力には屈さない彼女の精神を象徴している。

くびれた腰から秘所にかけては逆三角形の生地が張り付いている。材質は香羅が着ていた下着と同じだがラインが際どいハイレグ。香羅のボクサーパンツとは対照的である。

飾り気のない寝台には白い布しか被せていない。布団や枕も見当たらない。
枇杷は寝台に大の字で寝転がる。瓶の蓋を片手で器用に開け、岩塩を砕いたような粗い結晶を三粒、小指の腹に乗せた。口に運ぶ。味はしない。溶けてなくなったか、飲み込んだか、その感覚は分からなかったが、三粒は確実に体内に入った。枇杷は瓶に蓋をし、片手を伸ばし行灯の台座に置いた。行灯は弱く光っている。部屋全体は薄暗い。

「(夢見心地とはどういうことか?)」

枇杷は自分を被験体として確かめようとしている。

何も起きない。

「(三粒では少なかったか)」

そんなことを考えながら、今日、そして先日の戦を振り返る。
そういえば、黒須のことは桔耶殿も知らなかった。何者なのか?
そもそも、あそこで戦っていたらやはり勝てなかったのだろうか?

甲板に黒須が立っている。他には誰もいない。

「(一対一ならば、どうか)」

多数で勝てなければ一対一ではなお勝てない。そう単純ではないのだ。仲間が邪魔になることもある。

「(ここで彼を倒せば強大な敵が一人減る)」

意を決し、間合いを詰める枇杷。黒須も剣を抜く。火花を散らし打ち合う。互角。しかし速度を上げたのは琵琶。

「(いける!)」

不用意に黒須の間合いに入った枇杷に渾身の一撃が飛んでくる。避け切れない。受ける。枇杷の剣が折れ、肩から袈裟に斬られる。さらに黒須の刃は反転。真横。右下。連続して飛んでくる。
速度で勝る琵琶を己の間合いに誘い、必殺の剣で撃墜する。黒須は兵法家でもあった。

「(やられた…?)」

枇杷は倒れてもいない。血の一滴も流れていないのだ。ただし、刻まれた鎖帷子が零れ落ち、布切れになった衣が舞う。灰色の下着だけを残して棒立ちになった枇杷がそこにいた。

「(何が起きてるの!?)」

戦闘。裸身。自分の姿が脳内のスクリーンで上映されている。
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