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淫徳のスゝメ
第3章 私が最も華やいだ頃のこと


「遊さん。姫猫さんのお話だと、貴方は考え深い人のよう。貴方達のお母様はものの見方の狭い人なんですってね。私の可愛い直美も同じ。ご覧の通り、彼女だけ快楽に夢中になって、ふみ子には今日まで何も教えてこなかったんだ。可哀想に、この子はセックスについてあらゆる誤解を持っていたし、この期に及んで直美はこの教育に反撥している。と言っても、私は遊さんがふみ子を開花させなくても困らない。でも、姫猫さんは優しくて、こんな玩具で乱暴したら彼女が可哀想だと言うから、生身の異物を頼んだの。私も両親には随分と目隠しされてきた、こんな、日々を労働に費やしざるを得ない底辺の庶民達が道を踏み外さないよう導いてあげるのも、私達の役目じゃありませんか?」

「ああ、まりあちゃ──…義母さんは古っちい家の出のくせに学なしだ。事情は分かった。っつか、お前姫猫の友達のくせに熟女趣味か?」

「ううん、愚かな既婚者を哀れんでしまう性分なだけ。直美は時代の気まぐれが定めた紙約束に固執して、配偶者に合わせるために彼女自身の何かしらを我慢しているし、彼との繋がりを実感したいがために、彼女自身を桎梏している。配偶者の方だって、倫理や価値観の齟齬のために直美を煙たがることもあれば、彼女が所有物らしい行いから外れれば、彼女に無法を咎めるわ。戸籍を結ぶ契約なんて、法が変わればきっと今に無効になるのに。武力放棄を宣告したある国が、統治者が変わった途端、武力行使を認めるのと同じに。人間が、たかが書類やたかが指輪に踊らされるなんて、理不尽だよね。私の両親は、随分と前から結婚したことを悔やんでいる。母は、今や父を人間としてさえ見なさない。異性カップルの確執のほとんどは、性別の壁が災いしての反撥だと思うんだけど……彼らは理解しようと躍起になる。決別をマイナスに捉えがちで、特に一度婚姻関係を結んだ二人は、世間の目とやらにも敏感。そう、相手に束縛されるだけでは足りない、世間のために、挙げ句無益な日々を送る彼女達を、私は同情し、嘲笑いもしている」
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