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淫徳のスゝメ
第3章 私が最も華やいだ頃のこと
「仏野さんって、それ地毛?」
声が小さく呂律も悪い。それで不評の老齢教員の講義中、隣の席にいた三谷原さんが、私に声を潜めてきた。
私の長い黒髪は、稀に好奇の目を引く。とりわけ憂慮を招きやすいのは、シャンプーだ。
「メイドにさせているから手間はかからないわ。乾かす時間がかかるから、冬場だけは大変。スキンケアに移るまでの間が空いて、乾燥が進むでしょう」
「すごーい。メイドさんいるんだ。ってか、女子力高っ。私なんか髪乾かす前に乳液塗って、終わりだよ」
「仏野さん可愛いよねー。お化粧品どこの使ってるの?」
教員は、耳も遠い。
私語が波紋を広げつつあるにも関わらず、教員は、相変わらず都市伝説が生まれるからくりとやらをのんべんだらりと解説していた。
「ところで、仏野さんは早良さんと仲良いよね」
「だねっ、気になる。早良さんって、あの早良満貞のお嬢さんでしょ。お父さんあの顔なのに、ありえないほど美人さん。私一度で良いから話してみたいなぁ」
「声、かければ良いじゃない。必修は一緒でしょう」
「無理無理っ。神々しいオーラがあって、近づけないもん。仏野さん、どうやって仲良くなったの?」
「あの人すごくカッコイイよね!お洋服可愛いのに、その間なんかつまずいちゃった先輩が、早良さんに抱きとめられて赤くなってたし。私も……ちょっと迫られてみたいかも……」
「仏野さんー……話しかける勇気ないの。でも好きなの。お友達で良いから紹介して」
「──……」
穏やかな優越感が私を満たす。
私自身の容姿を、肌を賛美されるより、仏野の血統を崇められるより、裕福な身の上を妬まれるより、このところ、私はまづるさんの評判を耳に挟むことで法悦していた。
何においても一番でなくては気が済まなかった、同世代の少女達など、使える部位を備えなければ存在価値も見出せなかった私がだ。