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淫徳のスゝメ
第4章 私が天涯孤独になったこと
午後に唯一入っていた講義の担当教員が休んだその日、私とまづるは仏野の落ちこぼれの様子を見に行くことを思いついた。
私達は学校を出ると、すぐに最寄りの駅へ向かった。
「ゴールデンウィークにお話を聞いてから、きよらさんという子に会ってみたかったんだ。まさか姫猫から誘ってくれるなんて」
「姉の務めよ。きよらってば、自分が何故厄介払いをされたか未だに理解していないのよ。電話はしつこいし、手紙だって何度捨てても送ってくるの。向こうでもお友達が出来なくて、暇を持て余しているんだわ」
平日午後の快速電車は、貸切状態だ。
私は緩慢に窓を流れる三次元的絵画を眺めながら、杞憂を振り返っていた。
きよらからの電話や手紙は、三日に一度は寄越されてくる。
メイド達を躾けた甲斐あって、愚かな二人が連絡をとり合う蓋然性は断たれているも、私は滅法参っていた。
「きよらもお母様も、考え方が貧しいの。甘いわ。努力すれば報われる、愛せば愛は返ってくる、挙げ句に神様はいつも見ていらっしゃる…………よ。苦しんで享楽を得られるなら、卑しい生まれの貧乏人は、とっくに炎天下を十キロ走って一攫千金していたでしょう。特にきよらは小さい頃はちやほやされていたものだから、今でもそれが有効だと信じているの。私、二つも歳下の妹に慕われたことだってないのよ。お母様が正しいと評価するきよらの行動は、その原動力の全てが下心なの。お母様はお母様で、私を憐れな女でも見る目で睨んでくるの。お父様との楽しみについて話した時だって、お母様は私に何て言ったと思う?世間が貴女を何と言おうと、お母様は姫猫の味方よ。……ですって。仮にも娘である私を、はみ出し者か何かのように侮辱したの」
近代都市の風景は、いつしか牧歌的に色を変えていた。
私は、まづるとの折角の旅を溝に捨てていた。もっと愉快な話題にすべきだったと慙愧した時には既に遅し、車内アナウンスが終点を報せてきた。