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淫徳のスゝメ
第4章 私が天涯孤独になったこと
「姫猫、確認しておくわ。この間の気持ちに変わりはない?」
「もちろん。安堵しているくらいよ。まづるは女なら誰でも甘やかすと思っていたけれど、お母様やきよらにあんな興味を持っていたなんて。それに、私は感動したの。お洋服を着たまま感動したことなんて、まして自分以外の人間とのふれあいの中でこんな感情を覚えられたことなんて、初めてだったわ。だって、私は美しい少女にしか美を見出さない。お母様ときよらはいかんせん貧しい心魂は顔にも出ている、お父様に関しては、女でさえない。だのにまづるは、私のために……」
「姫猫のためでもないよ。男なら殺してみたいって、言ったことがあるでしょ?地球上の男という男を駆除したって足りないくらい。もっとも、そんなことをしたらさすがに労働者だってそれだけ減ってしまうから、私達の生活にも支障が出るし……。お母様ときよらさんに関しては、確かに姫猫のためかもね。姫猫がお父様の八つ当たりを受けてきたのも、貴女を不快に追いつめたのも、あの二人の所為。姫猫は魅力的な女の子。貴女はそこにいるだけで、周り全てを明るくするわ。お姫様の中のお姫様って、貴女みたいな人を指すんだな……。そんな貴女が、偶然金持ちに生まれたというだけで傲っているような人達のために自由に振る舞えないなんて、私にとっても不快だよ」
喉に流したダマスクローズの芳香が、いよいよ私を内部から甘い顫動で満たしてゆく。
まづるの私宅を初めて訪った春の日、不思議と落ち着くリビングで振る舞われた薔薇のお茶。
私は同じ会社のものを取り寄せて、こうして時々メイドに淹れさせていた。
ときめき、という言葉を、物心ついてまもなかった頃に読んだ少女漫画か何かで見かけた気がする。
この感情は、それとは違う。
人間と人間のふれあいが紐づく甘い顫えなど、科学的根拠も何もない。それは、お父様が何度も証明していたはずだ。