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淫徳のスゝメ
第4章 私が天涯孤独になったこと
「このクズ、そろそろ殺っちゃう?」
能天気なテノールが、にわかに私の夢見心地をかき消した。
下半身を気勢に奮った長男が、実父をロープごと回して遊んでいた。
お兄様が溌剌と輝いているのに対して、お父様は雨に打たれたてるてる坊主だ。健康的に焼けていた肌は病的な血色が滲んで、涙に濡れたかんばせは、だらしなくうなだれている。捻れたロープが腕を固定した上体を締めても、醜い呻きがこぼれるだけだ。
「気が変わったわ。仏野さん折角苦しんでいるのに、殺したら楽になっちゃうし」
私の浅瀬をからかいながらのまづるの口調は、メイドに紅茶を言いつける時のようだった。
まもなくして、さっきのメイドが来客を報せに訪った。
通されてきたのは、河崎久美子さんだ。まづるが電話をかけていたのは、彼女の従姉妹の友人もとい人体限定の彫刻師だったのだ。
学校で屡々顔を合わせる時は、そこいらの学生と変わらない。学内代表にでも選ばれよう、いっそ独善的な人となりさえ匂わせる上級生は、瀕死の少女にのしかかった女の死骸と二人の男の近親相姦の現場を眼間にするや、いよいよ顔を明るめて、ゴールデンウィーク以来の本性を露わにした。